LOCAL REPUBLIC AWARD 2018
最終公開審査会結果

<受賞プロジェクト>
(五十音順)

最優秀賞

鹿沼市旧市街の「祭り衆」による自治組織と「シゴト」を通じた連携がつくるローカル商店街

  • 建築設計室わたなべ / 渡邉貴明
  • 日光珈琲 / 風間教司
  • 小山工業高等専門学校建築学科助教 / 永峰麻衣子

優秀賞

地域拠点型シェアハウスの経済活動により、一帯に”他者との出会い”を提供する取り組み

  • トミトアーキテクチャ/冨永美保+伊藤孝仁
  • カサコプロジェクト

地域内共同のものづくり形成による経済圏と、里山の生活風景の再構築を試みるプロジェクト

  • 歓藍社 / 佐藤研吾、渡辺未来、河原伸彦

入賞

歴史と文化と自然と共生する住宅型複合施設による、価値交換および共創空間提供の試み

  • 荒井聖輝、石田卓也、新保卓己

建物改修による、個々の有機的な繋がりと一帯の経済的自立をもたらす地域開発プロジェクト

  • 望月陽子(代表者)、新井久敏、蔵kura、
  • 子鹿手袋マルクト、鹿手袋の長屋住人、ASA / 鈴木 啓、
  • 橋本 純、生物建築舎 /藤野高志、Maniackers Design

施設開発と福祉ネットワークの形成により、島の生活圏、経済圏を再構築するプロジェクト

  • 豊島の福祉を考える協議会
  • 安部良アトリエ一級建築士事務所 / 安部良

農業特化の滞在型観光の育成による地域コミュニティの活性化プロジェクト

  • 伊澤いちご園 伊澤 敦彦
  • アトリエ慶野正司 慶野 正司
  • 小山工業専門学校建築学科助教 永峰 麻衣子

佳作

里山循環型住居を中心に生活・文化・環境保護・経済活動が展開される取り組み

  • 中村将之、築山大祐、福本遼

エネルギーの地産地消、およびアート事業による地域の文化的発展を推進する取り組み

  • 松下康平、株式会社ZEエナジー、株式会社アースプラスデザイン

人と生業にフォーカスした、深川に住む人々の新旧交えたコミュニティ作り

  • 久保田啓斗、時田海斗、藤田彩加

街に開かれた老人ホーム改修を通じ、住民と高齢者の安心と地域共生を実現する取り組み

  • teco / 金野千恵、アリソン理恵、 (福)愛川舜寿会 / 馬場拓也

敷居を解放して公私の境を曖昧にすることで、近隣との連続的空間を共有する平屋木造団地

  • studio velocity / 栗原健太郎・岩月美穂

「最終審査に残った7つの提案について」(講評)

山本理顕

53点という応募総数は、極めてハードルの高いコンペとしては予想以上の数でした。驚いたのはその応募総数の多さだけではありません。それぞれに満を持したと思われる作品でした。最終的に残った作品以外にも、落とすのが難しい作品がいくつもありました。建築のコンペなら上位入賞間違いない作品も数多くありましたが、今回はAWARDの主旨に沿った厳正な審査によって7点を選出しています。

「LOCAL REPUBLIC AWARD」のようなコンペは世界的にもはじめての形式だったと思われます。その場所に固有の「小さな経済」の仕組みを発見してコミュニティ(Local Republic)を形成する、そうしたコミュニティ作りの可能性を問いかけたコンペでした。そして、こんなにも多くの人たちが既に斯様な試みに取り組んでおり、これだけ多様な方法がある、このことを多くの方たちに知ってもらえただけでも本AWARDの意義はとても大きかったと思います。

「小さな経済」のことをジョン・ムーアさんは「exchange(交換)」と表現しました。ここでの「exchange(交換)」とは信頼の交換です。金銭的利益に関わらず、交換する相手に敬意を払うという意味が暗黙の内に含まれています。隣の住人への「お裾分け」や、お茶を振る舞う、それも交換です。様々な交換の様式を発見することが重要です。地域社会の中での信頼関係が築かれて初めて、コミュニティが成立します。その持続性に建築的要素が決定的な影響を及ぼすという点は、本AWARDの主旨を理解する上で非常に重要となります。

最優秀賞<鹿沼の路地からはじまる小さな経済 −祭り衆がつなげるTerritorialshipとTrustship−>について

最優秀賞に選出された「鹿沼の路地から始まる小さな経済」は、今後のAWARDの方向性を決めるような試みだと思います。第一回「Local Republic Award」最優秀賞に相応しい素晴らしいプロジェクトです。 戦後の土地区画整理事業によって鹿沼の町の景観は一変してしまいました。生活者のための道路は、通過交通のための道路に作り替えられたと云います。当時この様な乱暴な都市計画が日本中で実施されており、地域社会は次々に破壊されて行きました。今回の鹿沼もその一つですが、鹿沼の人たちは諦めなかった。路地裏の専用住宅をカフェに改修し、住人のためのサロンにする。レストランを開業する。旧市街地が「Local Republic」と呼べるような場所に徐々に変わって行き、1999年から始まったこの活動により、既に28箇所が新たな形で開業しているということです!鹿沼への愛情が深い旦那衆、若衆という町方がこの運動に参加しており、その愛情を本作の代表者である渡邉さん、永峰さんたちは「テリトリアルシップ」と呼んでいます。この「テリトリアルシップ(場所への信頼)」と、住人たち相互の信頼関係「トラストシップ(人への信頼)」との両者の融合が大切、と強調されていたことが印象的でした。これこそが「Local Republic」です。

優秀賞<CASACO azumagaoka -他者と出会う家がつくる未来->について

「CASACO」はシェアハウスですが、主として在日外国人向けのシェアハウスです。場所は坂の多い都市である横浜の、典型的な坂の上の住宅地です。単なる専用住宅としてのシェアハウスだけではなく、コミュニティ・ペーパーの発行や、テラスの外に向けた開放、周辺住人との関係作りに非常に積極的です。夜は暗い住宅地も、このテラスによって周辺が明るく照らされます。今後、日本には海外からの労働者が益々増えることになります。彼らを地域社会の人びとがどう迎え入れるのかは大きな課題となります。外国人労働者問題は地域社会との関係の問題なのです。この試みは、そうした問題への一つの回答だと思います。もしここに何らかの「exchange(交換)」の仕組みを組み込むことができれば、周辺住人との交流がもっと促進され、共に一つの「Local Republic」をつくる可能性もあるように思います。今後の活動にも期待しています。

優秀賞<歓藍社 -藍染めを中核に福島の里山の暮らしを組み立て直す->について

「歓藍社」は藍染めの商品作りを中心とする「Local Republic」を体現した活動です。福島県の大玉村は福島原発から50キロ圏に位置し、奇跡的にも放射能汚染は軽度でした。それを契機に集まった人たちで藍染めの組織を立ち上げたというのですが、その行動力がすごい。原料生産、染めの作業、デザイン、製品化、販売、までの全過程を地域住民で作業分担しており、そこに呼応するように建築家、デザイナー、学者が集まります。東日本大震災の被害者受け入れという背景をポジティブに変換し、六次産業化を推進する強い意志も成功要因の一つと言えると思います。今後、カフェの開業を計画しているということで、周辺環境の保全や美しい景観作りにも眼を向けてもらえたら、観光客増加は十分に見込めます。吉良森子さんの指摘するように、そうした空間との関係を考えることで、良い形で「Local Republic」につながっていくと素晴らしいと思います。

以上、上位三作品について感想を述べましたが、惜しくも落選してしまった「美浜町営住宅河和団地」はとても美しい建築です。お隣同士の間に十分な空間を配置した非常に開放感の高い住宅です。ただ当該作品を「Local Republic」と呼ぶためには、やはり何らかの交換の仕組みが必要です。公共の住宅ではそれがどれほど大変なことか、僕も経験しているのでよく分かります。しかし、今後この団地でそれを実践してもらえたらと心から思います。この建築ならできるように思います。

入賞

<鹿手袋の物語>

土地のオーナーによる、地域社会への貢献の好例として評価されました。それは土地活用の巧みさではなく、建築がつくる空間や場の力を借りて、地域の中で小さな経済的な循環をつくり出そうとしていることに対する評価です。長屋ではその半数が職住一体の住戸として使われて、ゆとりのある路地が近所づきあいの中心になっていることが、審査員の関心を引きました。蔵を再生したレストランやギャラリーは、おおきな樹木の保存にも繋がっています。現在進行中の計画も発表され、今後の展開に期待します。

<しぇあひるずヨコハマ>

60年前に建築されたRC造の住宅のオーナーが、自らこの地を持続させるために、シェアスペース、飲食スペース、イベントやキッチンカーも使える中庭を整備して運営までを行うプロジェクトです。魅力的な歴史的背景と共に、建築のポテンシャルを人々の繋がりの核にしている点が評価できます。街の中に楽しげな一角ができ、拡散されていく期待感も持てる一方、一過性のイベントやボランティアに頼り過ぎ、経済的な持続性、循環のイメージが見えづらかった点には改善の余地があります。

<豊島 神愛館プロジェクト>

瀬戸内に浮かぶ「豊島」の旧乳児院「親愛館」の建物の再生を期に、島内で新しい福祉のネットワークをつくる試みです。先行する「島キッチン」での豊島のお母さんたちの活動、「神愛館」のリノベーションの過程、2017年に生まれ変わった「mamma」銭湯付ゲストハウスの運営は、島内外の人が互いに助け合いながら互いの居場所をつくりだそうとしていることが特徴です。これらの連携した活動に今後に計画されている「神愛館第二期計画」が加わることにより、豊島に「Local Republic」な新しい福祉の姿が現れることが期待されます。

<吉田村プロジェクト>

大谷石倉や産業遺産のリノベ施設とアグリツーリズムを掛け合わせた「農」がテーマのコミュニティ事業です。人口減少に伴い活力を失う地域を楽しくすることを目的に、観光農園やレストラン、宿泊施設、マルシェイベントも開催。地域の賑わいをフックに新たな雇用や定住も生み出すことができそうです。一方で、類似プロジェクトも散見されるため、地域固有の「宝」である特産品やエリアの魅力を活かし、独自色の高いコミュニティを形成すべきとの指摘が多くありました。拡張の余地がまだまだあるプロジェクトと言えます。

佳作

<しそう杉の家 -播磨地域における里山の循環型住居システム->

兵庫県宍粟(しそう)市の工務店による、里山循環型居住のための住宅供給です。里山から得られた木材を利用した住宅をつくり、居住することによって里山保全の足がかりとする、といった循環が、画一化された住宅供給とは一線を画する提案だと評価されました。今後は居住者のコミュニティ形成も期待されます。

<バイオマス資源を活用した地域内エネルギーネットワークによる地方創生>

山形県の山間部にあたる最上町にて、バイオマス発電によりエネルギーの地産地消を実現し、アートを軸に心を豊かにするという両軸で地域活性を図る好事例です。本AWARDの主旨である特定の空間でのコミュニティに完全に一致しているわけではないですが、志や実行力はかなりレベルが高く、応援したい案件の一つということで佳作に選出されました。

<深川ヒトトナリ>

清澄白河地域の、「人と生業」をきっかけとしたまちづくりです。歴史のある「水掛け祭り」コミュニティに由来する職人や材木屋といった地元民と、デザイナーやバリスタといった新住民が加わり、町にリノベーションによる小規模拠点を展開しながら活動を広げています。まだ始まって間もない活動であり、今後の展開にも期待したいと思います。

<ミノワザガーデン>

特別養護老人ホームの塀を解体し、地域に開放された庭をつくった事例です。入居者だけでなく、地域の人々にとっても利用できるさまざまな居場所は、高齢化とどのように向き合っていくかという問いを地域社会へ発信しています。今後も更に、地域を巻き込んで利用されていくと思いますが、その可能性が評価されました。

<美浜町営住宅河和団地>

平屋で戸建ての住宅が集合する知多半島・美浜町の町営住宅団地。審査のポイントとされた自治性・経済性・持続性については実現されていないものの、深い軒をもつ住戸群がつくる隣同士との関係、近隣にも開放された美しい空間がつくりだされています。今後の使われ方次第で「Local Republic」が興ることが十分に期待される作品です。

LOCAL REPUBLIC AWARD 2018 公開シンポジウムレポート

「LOCAL REPUBLIC AWARD」公開シンポジウムが2018年3月25日、寺田倉庫本社内の「テラトリア」で行われた。審査員を務める山本理顕氏、北山恒氏、陣内秀信氏、ジョン・ムーア氏がパネリストとして登壇し、「LOCAL REPUBLIC」に関する発表とディスカッションが行われた。

最初に登壇した山本理顕氏は「LOCAL REPUBLIC」の命名者であり、その言葉の由来を解説した。フランスの政治思想家アレクシ・ド・トクヴィルが著書「アメリカのデモクラシー」の中で言及している、ニューイングランドの「タウン」こそ「LOCAL REPUBLIC」である。「タウン」とはトクヴィルがアメリカ訪問で発見した共同体のあり方であり、市民全てが、社会的な意志決定に参加するシステムである。
また山本氏はハンナ・アレントの著作から、アメリカ大統領トマス・ジェファーソンが市民が直接参加する行政区「ward」を基盤とした民主制を理想としていたことについても言及した。今日において「REPUBLIC」という言葉は「共和国」と訳されているが、ジェファーソンの言う「REPUBLIC」とは「ward」のことを指している。「ward」は一つの経済圏であり、自分達の生活を自分達で決める社会である。

次に登壇した北山恒氏は、日本と世界の人口動態について解説を行った。人口が急増した産業革命以降、都市化・超資本主義化により「個人・共同体・自然」の関係が分離している問題を指摘した。その「個人・共同体・自然」を再び結びつけることが、「LOCAL REPUBLIC」の理念であると述べた。また北山氏は、自身が関わる木造密集市街地の安全性・居住性を改善する研究や、門前仲町に設計した「HYPER MIX」を「LOCAL REPUBLIC」の実践例として紹介した。

陣内秀信氏は、多くのフィールドワークによって得られた国内外の様々な「LOCAL REPUBLIC」を体現する例を紹介した。イタリアのアマルフィでは、住民が家だけでなく町全体を生活の場として、魅力的な暮らしを送っている。それは建築と広場が一体となって、日常と非日常が同時に存在する町である。ミラノ郊外のナヴィリオ地区は、運河沿いの町工場を商工住が混在する建築へとリノベーションし、今では多くのデザイナーが住む魅力的な地域になっている。またイタリアにはヴィチナートと呼ばれる、複数の住宅が集まってつくる広場があり、洞窟住居のマテーラやプロチダ島の漁師町などをヴィチナートの例として紹介した。海外だけでなく、日本でも清澄白河の商店街の取り組みや、外堀のカナルカフェなど、都市に住み、町とつながる住まい方が始まっていることを述べた。

4人目の登壇者であるジョン・ムーア氏は、便利さを追求し、人間のためだけに作られた社会に対し疑問を呈した。地域によって食文化や食材の味覚が違うのは、そこで育まれた種や土壌、微生物など、見えない生き物たちの営みがあることを表している。人間だけではなく、地域の生態系を含めてすべての生命を育むことが本当のコミュニティーであると説く。そのためにも、非集中型のローカル・エコノミー・ネットワーク型経済を作り、地域での循環型ライフスタイルを目指すべきであると主張した。

登壇者4人に加えて、審査員の吉良森子氏がビデオメッセージによりプレゼンテーションを行った。オランダでの設計活動を通して、新しい自治のあり方を実感していることを延べ、クロースターブールンの事例を紹介した。そこでは集落の中心的な施設であった老人ホームを、経営者が撤退することをきっかけとして、市民が自分達で運営に乗り出している。また続いて、実行委員の仲俊治氏が設計した「食堂付きアパート」も、小さな経済を基盤としたコミュニティを成立させる集合住宅として、紹介された。

後半はパネリスト達によるディスカッションが行われた。論点は多岐にわたったが、主にコミュニティにおける「経済」と「法律」に関する議論が交わされた。
かつてコミュニティには独自の経済活動があり、イタリアや大阪などの自治の精神が旺盛な都市には、自らが経営者である住人が多く存在している。これからの「LOCAL REPUBLIC」にも、独自のLOCALな経済活動が存在していることが考えられ、すでに水力発電などのインフラシステムを中心としたコミュニティの事例などが現れてきていることが話された。
LOCALな経済活動の中では価値を金銭で買うのではなく、価値を交換する「シェア」や「共有化」が資本主義の概念を変えていくのではないか、という意見も話された。
また、コミュニティにはLOCALな規範が存在していたように、「LOCAL REPUBLIC」にも新しい法律が必要なのではないか、という議論も行われた。何を共有して生きてゆくのか、というPUBLICとPLIVATEの定義を上から与えられるのではなく、自分達で決定していく「社会法律」という考え方の重要性が話された。
その後、会場からの質問を受け、ソマリアのクラン(氏族)や大家族が「LOCAL REPUBLIC」と呼べるかなど、より視野の広い議論が展開し、シンポジウムは終了した。