「最終審査に残った7つの提案について」

山本理顕

53点という応募総数は、極めてハードルの高いコンペとしては予想以上の数でした。驚いたのはその応募総数の多さだけではありません。それぞれに満を持したと思われる作品でした。最終的に残った作品以外にも、落とすのが難しい作品がいくつもありました。建築のコンペなら上位入賞間違いない作品も数多くありましたが、今回はAWARDの主旨に沿った厳正な審査によって7点を選出しています。

「LOCAL REPUBLIC AWARD」のようなコンペは世界的にもはじめての形式だったと思われます。その場所に固有の「小さな経済」の仕組みを発見してコミュニティ(Local Republic)を形成する、そうしたコミュニティ作りの可能性を問いかけたコンペでした。そして、こんなにも多くの人たちが既に斯様な試みに取り組んでおり、これだけ多様な方法がある、このことを多くの方たちに知ってもらえただけでも本AWARDの意義はとても大きかったと思います。

「小さな経済」のことをジョン・ムーアさんは「exchange(交換)」と表現しました。ここでの「exchange(交換)」とは信頼の交換です。金銭的利益に関わらず、交換する相手に敬意を払うという意味が暗黙の内に含まれています。隣の住人への「お裾分け」や、お茶を振る舞う、それも交換です。様々な交換の様式を発見することが重要です。地域社会の中での信頼関係が築かれて初めて、コミュニティが成立します。その持続性に建築的要素が決定的な影響を及ぼすという点は、本AWARDの主旨を理解する上で非常に重要となります。

最優秀賞<鹿沼の路地からはじまる小さな経済 −祭り衆がつなげるTerritorialshipとTrustship−>について

最優秀賞に選出された「鹿沼の路地から始まる小さな経済」は、今後のAWARDの方向性を決めるような試みだと思います。第一回「Local Republic Award」最優秀賞に相応しい素晴らしいプロジェクトです。 戦後の土地区画整理事業によって鹿沼の町の景観は一変してしまいました。生活者のための道路は、通過交通のための道路に作り替えられたと云います。当時この様な乱暴な都市計画が日本中で実施されており、地域社会は次々に破壊されて行きました。今回の鹿沼もその一つですが、鹿沼の人たちは諦めなかった。路地裏の専用住宅をカフェに改修し、住人のためのサロンにする。レストランを開業する。旧市街地が「Local Republic」と呼べるような場所に徐々に変わって行き、1999年から始まったこの活動により、既に28箇所が新たな形で開業しているということです!鹿沼への愛情が深い旦那衆、若衆という町方がこの運動に参加しており、その愛情を本作の代表者である渡邉さん、永峰さんたちは「テリトリアルシップ」と呼んでいます。この「テリトリアルシップ(場所への信頼)」と、住人たち相互の信頼関係「トラストシップ(人への信頼)」との両者の融合が大切、と強調されていたことが印象的でした。これこそが「Local Republic」です。

優秀賞<CASACO azumagaoka -他者と出会う家がつくる未来->について

「CASACO」はシェアハウスですが、主として在日外国人向けのシェアハウスです。場所は坂の多い都市である横浜の、典型的な坂の上の住宅地です。単なる専用住宅としてのシェアハウスだけではなく、コミュニティ・ペーパーの発行や、テラスの外に向けた開放、周辺住人との関係作りに非常に積極的です。夜は暗い住宅地も、このテラスによって周辺が明るく照らされます。今後、日本には海外からの労働者が益々増えることになります。彼らを地域社会の人びとがどう迎え入れるのかは大きな課題となります。外国人労働者問題は地域社会との関係の問題なのです。この試みは、そうした問題への一つの回答だと思います。もしここに何らかの「exchange(交換)」の仕組みを組み込むことができれば、周辺住人との交流がもっと促進され、共に一つの「Local Republic」をつくる可能性もあるように思います。今後の活動にも期待しています。

優秀賞<歓藍社 -藍染めを中核に福島の里山の暮らしを組み立て直す->について

「歓藍社」は藍染めの商品作りを中心とする「Local Republic」を体現した活動です。福島県の大玉村は福島原発から50キロ圏に位置し、奇跡的にも放射能汚染は軽度でした。それを契機に集まった人たちで藍染めの組織を立ち上げたというのですが、その行動力がすごい。原料生産、染めの作業、デザイン、製品化、販売、までの全過程を地域住民で作業分担しており、そこに呼応するように建築家、デザイナー、学者が集まります。東日本大震災の被害者受け入れという背景をポジティブに変換し、六次産業化を推進する強い意志も成功要因の一つと言えると思います。今後、カフェの開業を計画しているということで、周辺環境の保全や美しい景観作りにも眼を向けてもらえたら、観光客増加は十分に見込めます。吉良森子さんの指摘するように、そうした空間との関係を考えることで、良い形で「Local Republic」につながっていくと素晴らしいと思います。

以上、上位三作品について感想を述べましたが、惜しくも落選してしまった「美浜町営住宅河和団地」はとても美しい建築です。お隣同士の間に十分な空間を配置した非常に開放感の高い住宅です。ただ当該作品を「Local Republic」と呼ぶためには、やはり何らかの交換の仕組みが必要です。公共の住宅ではそれがどれほど大変なことか、僕も経験しているのでよく分かります。しかし、今後この団地でそれを実践してもらえたらと心から思います。この建築ならできるように思います。

入賞

<鹿手袋の物語>

土地のオーナーによる、地域社会への貢献の好例として評価されました。それは土地活用の巧みさではなく、建築がつくる空間や場の力を借りて、地域の中で小さな経済的な循環をつくり出そうとしていることに対する評価です。長屋ではその半数が職住一体の住戸として使われて、ゆとりのある路地が近所づきあいの中心になっていることが、審査員の関心を引きました。蔵を再生したレストランやギャラリーは、おおきな樹木の保存にも繋がっています。現在進行中の計画も発表され、今後の展開に期待します。

<しぇあひるずヨコハマ>

60年前に建築されたRC造の住宅のオーナーが、自らこの地を持続させるために、シェアスペース、飲食スペース、イベントやキッチンカーも使える中庭を整備して運営までを行うプロジェクトです。魅力的な歴史的背景と共に、建築のポテンシャルを人々の繋がりの核にしている点が評価できます。街の中に楽しげな一角ができ、拡散されていく期待感も持てる一方、一過性のイベントやボランティアに頼り過ぎ、経済的な持続性、循環のイメージが見えづらかった点には改善の余地があります。

<豊島 神愛館プロジェクト>

瀬戸内に浮かぶ「豊島」の旧乳児院「親愛館」の建物の再生を期に、島内で新しい福祉のネットワークをつくる試みです。先行する「島キッチン」での豊島のお母さんたちの活動、「神愛館」のリノベーションの過程、2017年に生まれ変わった「mamma」銭湯付ゲストハウスの運営は、島内外の人が互いに助け合いながら互いの居場所をつくりだそうとしていることが特徴です。これらの連携した活動に今後に計画されている「神愛館第二期計画」が加わることにより、豊島に「Local Republic」な新しい福祉の姿が現れることが期待されます。

<吉田村プロジェクト>

大谷石倉や産業遺産のリノベ施設とアグリツーリズムを掛け合わせた「農」がテーマのコミュニティ事業です。人口減少に伴い活力を失う地域を楽しくすることを目的に、観光農園やレストラン、宿泊施設、マルシェイベントも開催。地域の賑わいをフックに新たな雇用や定住も生み出すことができそうです。一方で、類似プロジェクトも散見されるため、地域固有の「宝」である特産品やエリアの魅力を活かし、独自色の高いコミュニティを形成すべきとの指摘が多くありました。拡張の余地がまだまだあるプロジェクトと言えます。

佳作

<しそう杉の家 -播磨地域における里山の循環型住居システム->

兵庫県宍粟(しそう)市の工務店による、里山循環型居住のための住宅供給です。里山から得られた木材を利用した住宅をつくり、居住することによって里山保全の足がかりとする、といった循環が、画一化された住宅供給とは一線を画する提案だと評価されました。今後は居住者のコミュニティ形成も期待されます。

<バイオマス資源を活用した地域内エネルギーネットワークによる地方創生>

山形県の山間部にあたる最上町にて、バイオマス発電によりエネルギーの地産地消を実現し、アートを軸に心を豊かにするという両軸で地域活性を図る好事例です。本AWARDの主旨である特定の空間でのコミュニティに完全に一致しているわけではないですが、志や実行力はかなりレベルが高く、応援したい案件の一つということで佳作に選出されました。

<深川ヒトトナリ>

清澄白河地域の、「人と生業」をきっかけとしたまちづくりです。歴史のある「水掛け祭り」コミュニティに由来する職人や材木屋といった地元民と、デザイナーやバリスタといった新住民が加わり、町にリノベーションによる小規模拠点を展開しながら活動を広げています。まだ始まって間もない活動であり、今後の展開にも期待したいと思います。

<ミノワザガーデン>

特別養護老人ホームの塀を解体し、地域に開放された庭をつくった事例です。入居者だけでなく、地域の人々にとっても利用できるさまざまな居場所は、高齢化とどのように向き合っていくかという問いを地域社会へ発信しています。今後も更に、地域を巻き込んで利用されていくと思いますが、その可能性が評価されました。

<美浜町営住宅河和団地>

平屋で戸建ての住宅が集合する知多半島・美浜町の町営住宅団地。審査のポイントとされた自治性・経済性・持続性については実現されていないものの、深い軒をもつ住戸群がつくる隣同士との関係、近隣にも開放された美しい空間がつくりだされています。今後の使われ方次第で「Local Republic」が興ることが十分に期待される作品です。

事務局連絡先:
info@localrepublic.jp

開催:
LOCAL REPUBLIC AWARD実行委員会、一般社団法人地域社会圏研究所

協賛:寺田倉庫